杉本博司が追う、430年前の少年たちの足跡。 | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

杉本博司が追う、430年前の少年たちの足跡。

欧米に学び、欧米を本拠地に現代美術作家として成功した杉本博司の心を揺さぶった天正遣欧少年使節の足跡。彼らが見たヨーロッパの風景を、写真とその時代の美術品で追体験できる展覧会が〈MOA美術館〉で開催中だ。

杉本博司《天国の門01、アダムとイヴ》2016年 ゼラチン・シルバー・プリント ©Hiroshi Sugimoto/Courtesy of Gallery Koyanagi
杉本はロレンツォ・ギベルティ作《天国の門》を撮り下ろした。フォレンツェの大聖堂に付設するサン・ジョヴァンニ洗礼堂の北側の扉として作られた初期ルネサンスの代表的な彫刻作品だ。高さおよそ5m、各パネルは縦横80cm、10枚構成されている。素材は金箔を施したブロンズ。たとえばアダムとイブの話、ノアの大洪水など旧約聖書の10の物語、が展開されている。《天国の門》と名付けたのは、かのミケランジェロであるという。

現在、《天国の門》は本来の扉からは外され、修復され、制作当初の金ピカの状態で美術館に収蔵されているのだが、杉本撮影のモノクローム写真によって、歴史の重みが伝わってくる。ほぼ実物大のプリントで、10連作の杉本作品となった天国の扉を一堂に鑑賞することができる。

美術史家、若桑みどりの著書『クアトロ・ラガッツィ』(集英社)は、天正遣欧使節について描かれている。第二次世界大戦後、イタリア政府給費留学生としてヨーロッパに向かう自分と天正の使節たちを重ね合わせて。

「彼らは描かれたばかりのミケランジェロの祭壇画を仰ぎ見、青年カラヴァッジョが歩いた町を歩いたのだ。ローマの輝く空の下にいた四人の少年のことを書くことは、まるで私の人生を書くような思いであった。(中略)アジアからヨーロッパへ行く船の上に、彼らといっしょに、青春のさなかにあった自分の姿もまた重なって見えたのである」(若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』)

使節たちはスペイン国王に謁見した後、スペインのマヨルカ島を経由し、海路でイタリアのリヴォルノに到着した。その時、彼らが渡った海を杉本が撮った「海景」シリーズの一つ《リグリア海、サビオレ》(ページ上写真)から展示は始まる。

訪れる土地の各地に残る遺跡やまだ新しかったルネサンスの成果物を天正の使節たちは見ながら旅をした。その記録をもとに、杉本は自身の作品を組み合わせながら、展覧会を編んでいく。
杉本博司《ピサの斜塔》2014年 ゼラチン・シルバー・プリント ©Hiroshi Sugimoto/Courtesy of Gallery Koyanagi
本展では、意図して撮り下ろしたものと、天正遣欧使節を意識する前にイタリア各地で撮影された作品の両方がある。たとえば、杉本の「建築」シリーズからは《ピサの斜塔》が展示されている。このシリーズは撮影時、大判カメラのレンズボードが指す無限遠の位置からさらに同じだけボードをレンズから離す。当然、正確に像は結ばず、ボヤけた写真になる。しかし、この焦点外しが大事で、これにより、余計なもの、たとえば電線も消えるし、建築以外のものも捨象され、建築の本質が浮かび上がって来るのだと言う。さらに、建築物を建築家が設計したとき、頭に浮かんだ状態に限りなく近づいているとも。ぼんやり浮かぶボヤけた建物。主に近代建築の名品を撮影対象としているが、時に、この《ピサの斜塔》のような古い時代のものもあった。

ローマにある〈パンテオン〉は、元々さまざまなローマ神を奉る万神殿であったが、後にキリスト教の聖堂となり、今日にその姿を留めている。杉本は満月の夜に天窓から入る光だけで撮影した。満月の日を調べ、撮影願いを申請し、許可が降りるまでに3年を要したという。
杉本博司《パンテオン、ローマ》2015年ゼラチン・シルバー・プリント ©Hiroshi Sugimoto/Courtesy of Gallery Koyanagi
同時開催の「信長とクアトロ・ラガッツィ 桃山の夢と幻」パートでは、桃山時代の茶陶の名品や書状、南蛮屏風などが展示され、「杉本博司と天正少年使節が見たヨーロッパ」パートと合わせ、立体的な構成を成している。
重要文化財 《洋人奏楽図屏風》 桃山時代 16世紀 MOA美術館

信長とクアトロ・ラガッツィ 桃山の夢と幻 + 杉本博司と天正少年使節が見たヨーロッパ

〈MOA美術館〉静岡県熱海市桃山町26-2。〜11月4日。9時30分〜16時30分。TEL 0557 84 2511。木曜休。1,600円。