ART
エルメス、手を通して行われるアーティストと職人の会話。|石田潤の In the mode
October 3, 2018 | Art, Fashion | casabrutus.com | text_Jun Ishida editor_Keiko Kusano
〈銀座メゾンエルメス フォーラム〉で開催中の『「眠らない手」エルメスのアーティスト・レジデンシー展』。エルメスが誇る究極の職人技とアーティストの想像力が生み出す作品群が一堂に会する必見の展覧会だ。
ファッションとアートが接近する昨今、ギャラリースペースを持つブランドは数多くあるが、メゾンのアイデンティティを最も色濃く反映していると感じさせるのが〈銀座メゾンエルメス フォーラム〉だろう。国内外のアーティストを若手から大御所まで幅広く紹介するこのスペースで、現在行われているのは『眠らない手』と題したエルメスのアーティスト・レジデンシー展だ。2014年から2017年にかけて行われたエルメスの工房での滞在プログラムに参加したアーティストの作品が展示されている。
アーティスト・レジデンシーは、2010年以来、エルメス財団が行っているもので、「メンター」と呼ばれるベテランのアーティストが選出した若手アーティストがシルク、皮革、シルバー、クリスタルなどのエルメスの工房に滞在し職人とともに作品制作を行う。アーティストはまず工房での職人たちの仕事ぶりを観察し、その後2〜3ヶ月の滞在期間中に2つの作品を作る。1点は本人の所有、もう1点は財団の所有となり、工房や展覧会で展示されるという仕組みだ。
本展は2013年の『コンダンサシオン』展以来、2回目となるアーティスト・レジデンシーの展覧会。キュレーションを務めたガエル・シャルボーは、職人やアーティストの言葉を介さないコミュニケーションや無意識から生まれるクリエイションに注目し、「眠らない手」というテーマを設定した。
本展は2013年の『コンダンサシオン』展以来、2回目となるアーティスト・レジデンシーの展覧会。キュレーションを務めたガエル・シャルボーは、職人やアーティストの言葉を介さないコミュニケーションや無意識から生まれるクリエイションに注目し、「眠らない手」というテーマを設定した。
9名のアーティストが滞在期間中に制作した作品と、彼らの通常の作品を合わせて展示した展覧会は二期に分かれ、現在開催中の第一弾(Vol.1、11月4日まで)では、クラリッサ・ボウマン、ルシア・ブル、セリア・ゴンドル、DH・マクナブの4名の作品がお目見えする。彼らの作品を個別に見ていこう。
クラリッサ・ボウマンは、今回の参加者のうちでは最年少となる1988年ブラジル、リオデジャネイロ生まれ。コンテンポラリー・ダンスも行うパフォーマンス系のアーティストで、身振りや儚いものに注目した作品を制作している。
彼女はピュイフォルカの工房に滞在し、工房にあるオブジェを最初の姿がわからないほどに変化させることを試みた。ピュイフォルカの1本の銀のスプーンは、両端を伸ばされ長さ17メートルにおよぶ銀線の軽やかな彫刻作品に変容。震わせることで音を発する音響装置ともなった。
米空軍将校を務めていたという異色の経歴を持つDH・マクナブは、アメリカ生まれのガラス作家。制作のため世界各地を旅し、日本の富山を訪れたこともある。今回はサンルイの工房で初めてクリスタルを使った作品づくりに取り組み、その特性を試すべく難易度の高い技術に挑戦した。
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illustration Yoshifumi Takeda
石田潤
いしだ じゅん 『流行通信』、『ヴォーグ・ジャパン』を経てフリーランスに。ファッションを中心にアート、建築の記事を編集、執筆。編集した書籍に『sacai A to Z』(rizzoli社)、レム・コールハースの娘でアーティストのチャーリー・コールハースによる写真集『メタボリズム・トリップ』(平凡社)など。