内藤礼が作り出す“生”の内と外。|青野尚子の今週末見るべきアート | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

内藤礼が作り出す“生”の内と外。|青野尚子の今週末見るべきアート

ビーズ、糸、布、そして水や風。そんなひそやかなオブジェで空間を満たしていく内藤礼のアート。〈水戸芸術館〉で開催中の4年ぶりの大型個展では、ギャラリーが丸ごと一つの作品となって観客を迎えます。内藤礼に話を聞きました。

空中に浮いた水路《タマ/アニマ(私に息を吹きかけてください)》。実際に息を吹きかけると小さなさざ波がたつ。「自分の生命が波という形で現れる」(内藤)。
一方で内藤は、「地上の生の光景」について考え続けていたという。それは15年ほど前に体験したある出来事がきっかけだった。

「夕方、暗くなってきた頃にベランダのふだん通らない狭いところにたまたま入って振り返った時、そこからさっきまで自分がそこにいた、いつも過ごしている灯りのついた部屋が見えました。その時に膨大な時間と、自分の人生を、走馬灯のように一瞬にして見てしまったような体験があった。私はこの世を去って行った人、生まれる前の人、動物や精霊といった生の外から生きている私を眺める、生の内側を見る体験をしたのだなと徐々に思うようになりました」
「生きている者が生の外に出て地上の生へ遠くから眼差しを送る。生きている人を外から慰め、守って励まし、讃え、祝う」(内藤)。
〈水戸芸術館〉では直線に連なる1室から5室までの5つの展示室が「生の内側」であり、その脇の通路のような6室が「生の外側」なのだという。観客は1室から5室までの5つの展示室を真っ直ぐ奥に進んだあと、その脇にある通路のような6室を戻り、最後に7室から8室へと進む。つまり観客は最初に「生の内側」を歩き、それから「生の外側」である6室を通ることになる。
その先へと誘うように長く伸びる6室。
2室と4室は6室とつながっていて、6室からは2、4室の作品や観客の姿が見える。内藤がベランダから自室を見たときに感じた「生の外側」から「生の内側」を見る体験が重なる。また「生の内側」である2、4室から「生の外側」である6室を見ることも可能だ。

「2、4室と6室とで眼差しが行き来する。普通は生きている人が死者をなぐさめるものだけれど、ここでは生の外にいる人たちが生の内側にいる人たちを励まし、慰め、讃える行為も生じている」
《ひと》は小さな目でこちらを見ている。この《ひと》たちは前にいる人を希望だと信じている、と内藤は言う。
内藤はこの個展を「生の内側」と「生の外側」の大きく2つに分けようという構想から始めた、という。内外の境界線がよりくっきりとしたイメージだ。

「でも制作しているときに、生と死のどちらにももう一方がすでに入っている、生の中に生でないものがある、ということに気づいた。水の波やビーズの輝きや動き、糸のように、ないと思っていたものが見えてきて、また見えなくなっていく。現れるものは必ず消えていくし、消えていくようなものしか現れてこない。私たちもなくなっていくものだから現れてきた。生まれてくるということはそういうことだ、ということを感じました」
瓶の口いっぱいに注がれた水に花が挿されている。「生きている姿を私たちに教えてくれる」(内藤)。