奈良美智の30年を、村上隆主宰のギャラリーで観て思うこと、いろいろ。 | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

奈良美智の30年を、村上隆主宰のギャラリーで観て思うこと、いろいろ。

奈良美智の30年分のドローイングを集めた展覧会が村上隆の主宰するギャラリーで開催され、盛況である。日本の現代美術を牽引する2人が、今回はアーティストとギャラリストという関係で実現したこの展覧会を見ながら、2人のこと、彼らが辿ってきた足跡などをあらためて考えた。

画学生としての道筋もまったく違っている。東京都内に生まれ育ち、東京藝大を目指して、数年の浪人ののち日本画科に入学し、東京藝大日本画科初の博士号を取得した村上は日本画から転向し、現代美術作家を志す。一方、奈良は青森県弘前市の出身で高校卒業後、東京造形大学の彫刻科に合格するものの、やりたいのは絵画であると再確認し、一浪ののち、武蔵野美術大学の絵画科に入学、しかし2年次の学費をヨーロッパ旅行に使ってしまい、中退。学費が安いという理由もあり、愛知県立芸術大学油画科に入学し、大学院まで。そのあとドイツ、デュッセルドルフに留学する。
村上は多彩な顔を持っている。現代を代表するアーティストの一人であることは誰もが知るところだが、自身と所属アーティストをプロデュースしたり、マネジメントする会社、カイカイキキを率いるリーダーであり、映画監督であり、アニメ制作会社も所有している。元麻布と中野に複数のギャラリーを運営する画廊経営者でもある。ビジネスマンとしての側面ばかりではなく、美術収集家の顔もある。考古遺物、古美術、現代美術、近現代陶芸を精力的に収集していて、そのコレクションは一昨年、〈横浜美術館〉で大規模展示された。〈十和田市現代美術館〉では現代陶芸の展覧会を開催した。趣味も多様だ。多肉植物を育てる大がかりな温室を持ち、メダカを飼って殖やしたり、クワガタをブリーディングし、イベントで子どもたちにプレゼントまでしている。
それに比べると奈良の活動はいたってシンプルだ。絵を描き、ときに立体作品を作り、焼き物を作り、写真を撮る。展示をディレクションする。求められて文章を書く。つまり創作活動に集中する日々である。昨年、奈良自身が主導して、栃木県那須塩原市に〈N’s Yard〉という施設をプレオープンさせたが(正式オープンは2018年3月16日)、これは事業というよりは奈良が考える理想に近い展示スペースを提案した試みだろう。ショップやカフェを併設しているのはわざわざ足を運んでくれる見学者やファンにサービスをしたいということだろうが、そもそもは自分の世界観を少しでも理想に近い形で伝えたいという意図の具現化と見える。奈良も同時代のアーティストの作品を所有し、展示に活用しているが、それはコレクションというよりも、アーティスト同士の交換で集まったものや、アーティストとしての姿勢に共感し、結果として収集したもののようだ。
だがよくよく観察すると、村上の本業および趣味の活動も多岐に渡るようで実は至ってシンプルなのだ。古美術、現代美術、陶芸の収集は過去と現在の自分以外の作家、アーティストの研究とリスペクトであるのは明解である。そして、多肉植物やメダカ、クワガタの繁殖に取り組むという純粋に趣味と思えることにも理由がある。本業でも、自分以外のアーティストを自身の事務所でマネジメントしたり、若手アーティストを発掘し、チャンスを与えるプロジェクト「GEISAI」を何年にも渡って続けてきたように(アーティストも生きものも)「育てる」というということに人並み以上の執着と情熱を注ぎこむ性質ゆえだろう。要するに、自分以前と同時代のアーティストには敬意を、未来のアーティストには機会を贈りたいということだ。
奈良美智がアーティスト、村上隆がギャラリーの主宰者という立場でつくった、奈良美智の30年分のドローイングを集めた展覧会。旧知の仲とはいえ、奈良美智は妥協を許すことはないのは当然で、村上は苦労したようだ。そのことをインスタグラム(フェイスブックにも転記)に書き記している。

「展覧会開始前夜まで、紆余曲折いろいろあって、途中で展覧会そのものを中止か?という局面がありました。奈良さんの変化する気持ち。それは未知な私達への不安とともに、今まで体験してきた嫌な思い、そしてこのようにあるべきであると思う世界観とのギャップがあって、それを埋めるべく、アーティストとギャラリーとの間の深い対話が必至であると想い、たくさん話しあって(チャットで、ですが)僕らへの疑念、人間関係、等のあれこれに対して、少しづつお互いを理解し合っていって、そして、展覧会開催に漕ぎ着けました」(2月12日。原文ママ)
村上はアーティストでもあるわけだから、気持ちの部分では奈良の意向は誰よりも理解できるだろう。しかし、ギャラリーのオーナーとして、展覧会を中止するわけにはいかない。順調なプロセスではなかったようだが、なんとか開催を実現させ、初日から盛況が続いている。会場では作品の撮影が許可され、SNS などで拡散されたことも功を奏している。
額装され、壁に掛けられた作品は約350点、テーブルの上に置かれ、アクリルのカバーをし、平置きで見られる作品は約250点、総点数およそ600点の作品が会場を埋めている。描かずにはいられないBorn to beアーティストな奈良美智は一体この何十倍のドローイングを描いたのだろう。なにかを考えている、なにかに怒っている、なにかを決めている。そんな人物とか犬とか、一人の画家の日々の雑記を前に、どうしてこんなに、もっと見たいもっと見たいと僕たちは思ってしまうのだろう。まあいい。奈良の30年の断片を一つひとつていねいに見て、そのあと考えるとしよう。

奈良美智『Drawings : 1988-2018 Last 30 years』

〈カイカイキキギャラリー〉

東京都港区元麻布2-3-30
元麻布クレストビルB1F。〜3月8日。11時〜19時。日・月・祝休。TEL03 6823 6038。

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