「不完全」だからこそ美しい? 小沢剛の個展へ。|青野尚子の今週末見るべきアート | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

「不完全」だからこそ美しい? 小沢剛の個展へ。|青野尚子の今週末見るべきアート

千葉市美術館で開催中の小沢剛個展タイトルは『不完全』。美術展としてはちょっと変わったタイトルの裏に、この世界への疑問が潜んでいます。

《帰って来たペインターF》の映像。インドネシアの画家やミュージシャンとのコラボレーションによるもの。(2015年 森美術館)
《帰って来たペインターF》は画家、藤田嗣治をモデルに小沢が考えた「もう一つの歴史」を映像と絵画のインスタレーションにしたもの。藤田は第二次世界大戦時、戦争画などの責任をとらされる格好で逃げるようにパリへと旅立った。もし彼がパリではなく、インドネシアのバリに渡ったとしたら? この作品は過去のできごとを小沢なりに読み解いて、事実と創作とをシャッフルした結果生まれている。
《油絵茶屋再現》(小沢剛+油絵茶屋再現実行委員会)。12人の「再現画工」が引札に描かれたモノクロームの小さな絵をもとに、五姓田親子の油絵を再現した。
次のコーナーも美術史にまつわる史実と創作とが入り混じる。《油絵茶屋再現》は明治初期、浅草寺で行われた油絵の展覧会を再現したもの。五姓田芳柳と義松親子が開催した。当時、油絵はまだ馴染みのない “新参者” だった。

「その頃の浅草寺は今の武道館みたいなもの。市民権を得るにはここで興行するのが一番、と考えたのでしょう」

再現といっても残っている資料は、出品された絵画を木版で摺った引札(チラシ)のみ。絵自体は残っていない。その引札をもとに東京藝術大学の卒業生らが油彩画を描いた。今、展示されている絵がどれだけオリジナルを忠実に再現しているかは神のみぞ知る領域だ。
小沢が醤油で美術史上の名作を再現した《醤油画資料館》(1999年 福岡アジア美術館蔵)。古代から現代まで多彩な作品が並ぶ。
《油絵茶屋再現》の隣には《醤油画資料館》がある。和食に欠かせない調味料である醤油は画材としても使われており、桃山時代から江戸時代、明治時代に至るまでさまざまな傑作が残された……、という設定のもと、醤油で描いた絵が並ぶ。小さな「資料館」の中に入ると醤油の匂いもする。今回の個展には「パラレルな美術史」というサブタイトルがついている。もうひとつの、あり得たかも知れない美術史というニュアンスだ。この着想の始まりが醤油画だったのだという。

「それまでは近代以前の絵画にあまり興味がなかったのですが、『醤油画』を描くためそれらの絵画を見ていくうちに面白さに気づいた。過去と向かい合うことで未来も思考できる。美術の解釈の広さを学ぶことができた」
《油絵茶屋再現》の「引札」 photo_Naoko Aono
駄洒落や醤油で描いた絵といった脱力系のアートが歴史は一つではないことを教えてくれる。それぞれのシリーズが少しずつ重なって大きなストーリーを語り、観客がさらにまたそれを読み替えることもできる。さまざまな歴史が重なり合い、絡み合う骨太な展示だ。
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