「さいはて」だけれど本当は「最先端」。奥能登で時空を旅する芸術祭へ。 | ページ 5 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS facebook-a facebook instagram line twitter youtube

「さいはて」だけれど本当は「最先端」。奥能登で時空を旅する芸術祭へ。

「さいはての地」とうたっているけれど、かつては大陸から最新のものが入ってくる「最先端の地」だった奥能登。『奥能登国際芸術祭 2017』は三方を海に囲まれた能登半島の先端で、海や山、廃線になった駅、空き家を舞台にバリエーション豊かな顔ぶれが登場する芸術祭です。さいはてから日本のルーツを辿るアートの旅に出かけませんか?

『奥能登国際芸術祭 2017』の公式写真家であり、出展者の一人でもある石川直樹は、数年前から能登を撮影してきた。 photo_Naoki Ishikawa
長年「来訪神」に関する祭祀儀礼のフィールドワークを続けている石川直樹にとって、能登は特に興味惹かれる場所だった。残念ながら珠洲市には残っていないが、北陸や東北の日本海側には各地に仮面をかぶって異形の神を迎える祭りが伝わっている。彼は奥能登で「あえのこと」と呼ばれる神事を撮影してきた。これは仮面こそ使用しないが、同じく来訪神を迎える儀礼である。

「12月に田の神様を家にお迎えし、豊作を祈るという行事です。目に見えない存在である神を食べ物でもてなし、お風呂にも入っていただく。ちょっと演劇的でもあり、非常に興味深いです」(石川直樹)
石川直樹の撮影による、神事「あえのこと」のワンカット。 photo_Naoki Ishikawa
ただし、最近では設備も近代化し、スイッチ一つでお湯がわく最新式のお風呂に透明人間のような神様をご案内する、というシュールな光景も見られるのだそう。その彼が作品の展示場所として見つけたのは、宝立町にある「宝湯」という銭湯だった。元々、遊郭と温泉銭湯からはじまり、向かいでは芝居小屋や食堂を手がけていたという橋元家が経営している。現在も銭湯は営業中だ。

「珠洲にしてはめずらしくちょっと俗っぽくて、猥雑な雰囲気が気に入ったんです。それに加えて、珠洲の歴史を室内に内包しているというか」と石川は言う。
石川直樹《混浴宇宙宝湯》は、木造3階建ての銭湯の建物をほぼ丸ごと使ったインスタレーション。これは神事「あえのこと」を再現した一角。膳は神様に食べていただく食事だ。
石川直樹《混浴宇宙宝湯》。大広間では奥能登で客をもてなすときに出される「ヨバレ」という膳を再現。宝湯を経営する橋元家の古い写真も。
《混浴宇宙宝湯》での石川直樹。木造3階建ての建物の中核を占める大広間の舞台の奥には、見附島を描いた襖絵がある。
石川直樹《混浴宇宙宝湯》は、木造3階建ての銭湯の建物をほぼ丸ごと使ったインスタレーション。これは神事「あえのこと」を再現した一角。膳は神様に食べていただく食事だ。
石川直樹《混浴宇宙宝湯》。大広間では奥能登で客をもてなすときに出される「ヨバレ」という膳を再現。宝湯を経営する橋元家の古い写真も。
《混浴宇宙宝湯》での石川直樹。木造3階建ての建物の中核を占める大広間の舞台の奥には、見附島を描いた襖絵がある。
増改築を繰り返した建物には現在の当主も気づかなかったデッドスペースもあった。石川はここを、ドットアーキテクツの協力を得て一部に階段などを新設、迷宮のようだった建物にさらに幻のような空間を挿入している。そこに点在する置物や写真のうち半分はこの家にあったもの。残りの半分は石川が沖縄など各地のリサイクルショップなどで購入したものであり、自身が奥能登で撮影した人や風景、祭りの写真だ。

「宝湯自体がそのときどきで増改築を重ねた、ブリコラージュの塊のような空間です。そこに元からあったものと、世界中から集めてきたものを置いて“混浴”させてみました。もともとカオスだったんですが、さらに混ぜてみた感じです」(石川直樹)
石川直樹《混浴宇宙宝湯》、浴室のインスタレーション。シロクマは、北海道で売られている木彫りの熊を白くペイントしたもの。
石川直樹《混浴宇宙宝湯》。麻雀部屋を再現したスペース。当主のお父さんが麻雀好きだったそう。
石川直樹《混浴宇宙宝湯》。当主の祖母が書道教室を開いていたところから着想。「中央の亀がおばあちゃんなんです」(石川)。
石川直樹《混浴宇宙宝湯》。かつての遊郭をイメージした部屋。
石川直樹《混浴宇宙宝湯》、浴室のインスタレーション。シロクマは、北海道で売られている木彫りの熊を白くペイントしたもの。
石川直樹《混浴宇宙宝湯》。麻雀部屋を再現したスペース。当主のお父さんが麻雀好きだったそう。
石川直樹《混浴宇宙宝湯》。当主の祖母が書道教室を開いていたところから着想。「中央の亀がおばあちゃんなんです」(石川)。
石川直樹《混浴宇宙宝湯》。かつての遊郭をイメージした部屋。
冒頭で紹介した、通常とは向きの違う地図は石川が見つけたもの。富山県庁で購入し、10年以上前から部屋に飾っていたのだそう。

「こうやって反転させた日本地図を眺めていると、環日本海という視点から、新しい列島の姿を想像することができます。能登半島は陸のどん詰まりではなく、海から見れば日本海に突き出た入口だった。そのことを実感できるでしょう。視点の転換や、ものの見方を逆転させることは、知っているつもりになっていた世界の別のレイヤーに滑りこむことでもあって、まさにアートの役割だと僕は思います」(石川直樹)

石川らアーティストが奥能登でブリコラージュの力を駆使して制作した作品を通じて、さらに時空を超えた旅ができる。『奥能登国際芸術祭 2017』は単にさいはての地へ旅行するだけでなく、異次元へと連れ出してくれる芸術祭なのだ。
蛸島町での「キリコ祭り」の様子。キリコとは“切子燈籠” の略で、山車に取り付けられた燈籠を指す。キリコは神様の足下を照らすためのものだ。「キリコ祭り」は170もの集落で行われ『奥能登国際芸術祭 2017』期間中は毎日のようにどこかでキリコ祭りが開催される。 photo_Naoki Ishikawa