移ろうアイデンティティをアートにするロニ・ホーン、日本の美術館での初個展開催! | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

移ろうアイデンティティをアートにするロニ・ホーン、日本の美術館での初個展開催!

『カーサ ブルータス』2021年11月号より

水、島、地図……。謎めいたキーワードがさまざまなことを暗示するロニ・ホーン。森の中の美術館で個展開催中です!

「森の遊歩道」のガラス彫刻《鳥葬(箱根、日本)》の脇で。空気にも土にもたっぷりと水分が含まれた日本特有の森の光景だ。 (c) Roni Horn
《エミリのブーケ》(部分)。エミリ・ディキンソンの手紙の言葉の引用。テキストや言語は彼女の作品の重要な要素。他の作品ではエドガー・アラン・ポー、ヘンリー・ソローなども引用している。 (c) Roni Horn
ロニ・ホーンはアメリカを代表する現代アーティスト。ポーラ美術館での個展「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」は日本の美術館では初めての個展だ。写真、コラージュ、ガラス、地図など多彩な素材や技法を駆使したコンセプチュアルな作品が並ぶ。

彼女のアートの背後には常に変化するもの、移ろいやすいものへの関心がある。その一つが展覧会タイトルにもある「水」だ。川の水や温泉、水が上に張られているかのようなガラスなど、ロニ・ホーンの作品には水やそのイメージが多く現れる。水は周囲の環境に応じて気体・液体・固体と姿を変え、形も定まらない。同様に、ひと時たりともじっとしていないものに天気や気候がある。同じ女性の顔を6週間、撮り続けた《あなたは天気 パート2》という作品では女性の表情が微妙に変わる。同じ曇り空でも雲の量や明るさが刻々と変わるように、何ごとも一つのところにとどまってはいないのだ。

旅が好きな彼女だけれど、コロナ禍で移動も難しい。そんな中、個展のオープニングにあわせて来日し、2週間の待機期間を終えて美術館に現れた彼女に聞いた。
《無題》。ガラス彫刻。それぞれ「実際には、巧みな恩恵がある。」などの副題がある。 (c) Roni Horn
《あなたは天気 パート2》(部分)。アイスランドの温泉で女性を6週間、撮り続けた作品。わずかな表情の違いは、人も自然も常に変化し続けるものであることを教えてくれる。 (c) Roni Horn
《まだ 5》(部分)。縦横とも3メートル近い大型のドローイングをよく見ると、手書きの記号や印がある。一度ドローイングした紙を細かいピースに切断し、もう一度組み合わせたものであることがわかる。 (c) Roni Horn
《まだ 5》などの展示風景。他の作品にも《または 6》などのタイトルがつけられている。 (c) Roni Horn
Q 待機はいかがでしたか。

箱根の温泉旅館で過ごしていました。とても素敵なところで、一生この生活を続けてもいいと思ったぐらい(笑)。私は社交的なほうではないし、郊外のスタジオでアシスタントもつけずに一人で制作しているので、孤独には耐性があるんです。そもそも創造とは井戸の中にまっすぐに降りていくようなもの。一人でいるのが自分には合っていると思います。

Q 作品にも登場するアイスランドにはよく通っているそうですね。

残念ながら現在では世界中でテクノロジーや経済などさまざまなものが均質化されているので、境界線は消滅してしまい、純粋な意味での島というものは存在しないのではないかと思います。でもアイスランドを最初に訪れたときに覚えた孤独感は、他では味わうことのできないものでした。とくに私が惹かれるのは木がほとんどない、どこまでも見通せるシンプルな景観です。危険な動物もいないし、治安もいいので、80〜90年代にはよくテント泊で旅行していました。そこでは、自分が完結した一人の人間であるという心地よい感覚を覚えることができました。
《死せるフクロウ》。本来一つであるはずのものが対(ペア)になっていることでアイデンティティの認識を揺さぶる。 (c) Roni Horn
ロンドンのテムズ川を写したシリーズ《静かな水(テムズ川、例として)》。水面に数字がプロットされ、下部にその数字に対応するテキストが書かれている。テキストは水からの連想や文学の引用など。水に多彩な意味が読み込まれている。 (c) Roni Horn
Q あなたの作品には水や天候といった要素が頻出します。ガラス彫刻のシリーズは自然光での展示が条件とも聞きました。人もまた、天気や光のように移ろいやすいものだと思いますか。

私は自分を男性/女性という観点から規定したことはないんです。その両方を含むアンドロギュノス(両性具有、中性)的なものであり、常に移り変わっていくものだと考えています。これか、あれかのどちらかを排除するということではなく、自分のアイデンティティの中でさまざまなものを包括し、統合していく。私は水や天候、人間のあいまいさに惹かれます。容易に定義できないものだからこそ、想像力を羽ばたかせる余地があるのです。

Q 俳句や文楽、生け花、折り紙などさまざまな日本文化にも興味をお持ちだと聞きましたが。

日本文化については主に美術館や図書館で学びました。とくに俳句からは強い影響を受けています。読み手の視点が包含される、とても実践的なアートだと思います。私の作品にも通じるものがあると考えています。
《水による疑い(何を)》。展示室の入口や出口にも、案内板のようにも見える作品が置かれている。2つのフロアに展示されている作品群がゆるやかなストーリーで繋がれているようにも感じられる。 (c) Roni Horn

Roni Horn

1955年生まれ、ニューヨーク在住。アメリカ現代美術を代表するアーティスト。写真、彫刻、ドローイングなどさまざまなメディアでコンセプチュアルな作品を制作。これまでに〈ポンピドゥー・センター〉や〈バイエラー財団〉などで個展を開催。
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