横尾忠則の手で甦った写楽を、天王洲の新ギャラリーで観る。 | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

横尾忠則の手で甦った写楽を、天王洲の新ギャラリーで観る。

活動期間わずか1年ほど、正体についても謎が多い浮世絵師、東洲斎写楽。その代表作をモチーフに横尾忠則が新作版画を発表する。これまで横尾が描いたポートレイトにマスクを付け加える「マスクポートレイト」とともに、横尾の新しい展開を見せる個展だ。

有名な《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》を元にしたもの。広げた両手に力がこもる。
上下反転した顔を重ねたものもある。
女形2人の絵に、左右を反転させた顔を組み合わせる。
まるで顔が3つに分かれているかのよう。写楽は役者の特徴をよく捉えて大げさなぐらいに誇張した。
版画は大きく「版ズレ」していて、目も顔も手も二重に見える。

「版画なのだから静止しているわけですが、そこに運動を与えたいと思ったんです。肉体は固定された存在だけれど、その人の肉体の中に潜んでいるアストラル体がずれて出てきたような感じです。先代の中村歌右衛門さんの舞台などはアストラル体がお芝居をしているかのようでした。今回は同じ版でもいろいろな色を試しているので、別のもののように見える。写楽の持つ多様性を描けたのではないかと思っています」

(注)アストラル体 ルドルフ・シュタイナーらの神智学が主張する、人間を構成する要素の一つ。目に見えない、思考やエネルギーのような存在。

「版ズレ」にした理由はもう一つある。横尾はグラフィックデザイナーとして独立する前、18歳のときに印刷所に勤めていた。印刷所では試し刷りのため、既に一度印刷した紙にほかのものを重ねて印刷することがある。それに横尾は興味を惹かれたのだという。普通なら捨ててしまうものを、こんな形で開花させているのだ。
横尾の作品からインスピレーションを得てクリエイティブユニット、RICH & MIYUが制作した映像。横尾のマスクの絵を3枚並べた壁に投影される。
この版画では横尾の原画をもとに彫り師が原板をつくり、摺り師が色を重ねるというやり方をとった。

「以前は自分で版を彫ったこともあるのですが、腱鞘炎になってしまってこの版画ではそれができなかった。でも彫り師の方も摺り師の方も僕の意図を汲んでくれて、直しはほとんどありませんでした。呼吸が合ったんですね。呼吸が合わないとほんとうにダメなんです」
マスクポートレイト〈よだれシリーズ〉。横尾が1965年から制作している女性のポートレイトにマスクをつけたポスター作品。
マスクポートレイト〈よだれシリーズ〉。背景にもさまざまなバリエーションがある。
マスクポートレイトの始まりはおよそ1年前、神戸の〈横尾忠則現代美術館〉で開かれた『兵庫県立横尾救急病院展』だった。今では新型コロナウイルス対策のため、あらゆる人がマスクをしているが、この展覧会が始まったのは2020年2月1日。その前日、1月31日にWHO(世界保健機関)が新型コロナウイルスによる肺炎の発生状況を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に該当すると発表したところで、まだマスクをつけている人はほとんどいなかった。
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