青野尚子の「今週末見るべきアート」|妖怪が跋扈する日本の奇妙な風景。 | ページ 3 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

青野尚子の「今週末見るべきアート」|妖怪が跋扈する日本の奇妙な風景。

日本で撮ったもののはずなのに、日本じゃないみたい。フランスの写真家、シャルル・フレジェが撮った日本の祭りの衣装は不思議な色と形とエネルギーに満ちている。銀座メゾンエルメス フォーラムでの個展のために来日した彼に聞いた。

「WILDER MANN」は野生の象徴だけれど、土着の信仰とキリスト教が混ざり合った結果、野生に対する人間の矛盾した態度が表れるものになった。

「キリスト教が入ってくる前は野生を表し、崇めるという側面もあったけれど、キリスト教では動物は悪魔の化身とされている。そこで悪魔である動物を支配するというコスチュームが生まれた。

『WILDER MANN』の中にはロープやチェーンでつながれているものがいるけれど、それは神や人間が悪魔をコントロールしていることを表している。中世に絶大な権力を振るったキリスト教会が『WILDER MANN』の意味を変えたんだ。でもあれだけの権勢を誇ったキリスト教の勢力をもってしても、習俗自体を絶やすことはできなかったのが面白い」
左/「田の神 嫁」鹿児島県志布志市安楽  右/「他の神」鹿児島県志布志市安楽
「WILDER MANN」の装束には重さが30キロにもなるものもあるのだそう。

「それだけ重いものを着て酒を飲み、踊り、ジャンプする。そんなことを数日間も続けてやることもある。そうすると疲労と酸素不足で頭がもうろうとしてくるんだ。いわゆるトランス状態だね。そういったことがシャーマニズムと結びつけられたのかもしれない」
「YÔKAÏNOSHIMA」展の会場にはライブラリーがあり、妖怪や日本の奇祭に関する資料が並んでいる。フレジェ自身も水木しげるなど、妖怪を描いた漫画からは大きなインスピレーションを得たという。

「僕の写真集で水木先生にテキストを書いてもらうのが夢だったんだけど、実現する前に亡くなってしまった」とフレジェは残念そうだ。
個展のため来日したシャルル・フレジェ。
彼が今取り組んでいるのは奴隷貿易船が立ち寄った地域でのプロジェクト。そこでは奴隷としてアフリカから連れて来られた人々と現地の伝統とが混ざり合って、それぞれ独自の文化が発達している。

「人の移動によって文明が融合し、新しいものが生まれることに興味がある」

日本でも中国・朝鮮などの大陸文化が移入したことは明白だが、南方の島々からの影響も気になる、とフレジェは言う。本展は奇想のコスチュームの背景にある異文化の出合いに思いを馳せながら見るのも面白い。フランスの写真家の目を通して、知らなかった日本が見えてくる。

シャルル・フレジェ

1975年フランス生まれ。ルーアン美術学院で学び、90年代末から写真家として活動を始める。「YÔKAÏNOSHIMA」「WILDER MANN」のほか、フランス・ブルターニュ地方のレースのかぶり物「コワフ」をつけた女性たちを撮った「BRETONNES」(ブルトンヌ)などのシリーズがある。

「YÔKAÏNOSHIMA」シャルル・フレジェ展

〈銀座メゾンエルメス フォーラム〉~5月15日。

東京都中央区銀座5-4-1
8階 TEL03 3569 3300 4月8日休。11時~20時(日曜 ~20時)。入場無料。
公式サイト

シャルル・フレジェ展「BRETONNES」

3月13日まで「BRETONNES」シリーズが恵比寿のギャラリー〈MEM〉で展示されている。
〈MEM〉〜3月13日。

東京都渋谷区恵比寿1-18-4
NADiff A/P/A/R/T 2F TEL 03 6459 3205 12時〜20時。月曜休。公式サイト

青野尚子

あおのなおこ  ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に「新・美術空間散歩」(日東書院本社)。西山芳一写真集「Under Construction」(マガジンハウス)などの編集を担当。

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