これも琳派? 謎の多い鈴木其一の《夏秋渓流図屛風》|ニッポンのお宝、お蔵出し | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

これも琳派? 謎の多い鈴木其一の《夏秋渓流図屛風》|ニッポンのお宝、お蔵出し

琳派なのだけれど、あまり琳派っぽくない不思議な屛風、鈴木其一の《夏秋渓流図屛風》が〈根津美術館〉で展示されます。なぜこんな風に描かれているのか、謎の多い絵です。

《夏秋渓流図屛風》右隻(部分)。写実的、博物画的に描かれたヤマユリと尾形光琳の梅のようにデザイン化された非リアルなクマザサとが隣り合う。檜にセミが止まっているところ(右上)は真横から描いている。実際にこういったアングルで見たり描いたりすることはほとんどないだろう。
一枚の絵に質の異なる表現が共存するのは中国の花鳥画などにも見られる、と野口さんは言う。其一は中国絵画の模写的な作品も残しており、そういったことも意識していたのかもしれない。ただし中国絵画では中心となるモチーフを明瞭に、周辺にあるものはラフに、と明快なヒエラルキーをつけることが多いが、《夏秋渓流図屛風》では、写実的なヤマユリと文様化されたクマザサというように、一見、脈絡なく写実と抽象とが混在している。そもそも琳派ではこんなふうに具体的に風景を描くことは少ない。大胆な色面構成などは琳派に通じるが、その他の要素はまるで琳派らしくないのだ。
《夏秋渓流図屛風》左隻(部分)。秋になって色づいた葉が描かれる。山並みなどもよく見ると右隻と左隻で色が違う。季節の移り変わりが描かれている。
琳派の方法論にのっとって装飾的に描くわけでもなく、完全な写実でもないこの屛風は近代的な表現の端緒を開いたという人もいる。

「個人的な幻想や内面を作品に意識的に投影させたという意味で、他の多くの江戸絵画とは少し違う近代性を帯びていると思います。普通なら伝統の上に自ずと個性が乗せられる、そんなふうにして新しい表現の世界が切り開かれていったのだと思いますが、其一のこの絵にはどこか、力づくで新しいものにしようという近代的な姿勢が感じられる」(野口)
《夏秋渓流図屛風》右隻(部分)。渓流は動きを感じさせるけれど、透明さはない。
この絵は、鈴木其一の他のどの作品とも似ていない。少なくとも、現時点で其一作と判明している作品の中では《夏秋渓流図屛風》だけがこのような奇異とも言える表現がされているのだ。この絵は当時、其一の最大のパトロンだった家に伝来しているのだが、そのパトロンが所有していた其一の他の絵とも異なる表現となっている。絵肌からは高価な画材を惜しみなく使った様子がうかがえる。こういった突然変異のような絵が生まれたのはパトロンの要望だったのか、何か特別な事情があったのか、謎は深まるばかりだ。

この屛風は今年になって重要文化財に指定された。「財団創立80周年記念特別展 根津美術館の国宝・重要文化財」の出展作としてはもっとも新しく指定されたものになる。重要文化財になって初めてのお披露目になるこの展覧会でぜひ、国が認めたお宝の仲間入りを祝いたい。

財団創立80周年記念特別展 根津美術館の国宝・重要文化財

〈根津美術館〉11月14日~12月20日。日時指定制。《夏秋渓流図屛風》は11月14日〜29日のみの展示。月曜休(ただし、11月23日は開館、翌24日は休館)。10時〜17時。一般1500円。 

青野尚子

あおの なおこ  ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に「新・美術空間散歩」(日東書院本社)。西山芳一写真集「Under Construction」(マガジンハウス)などの編集を担当。

会員プログラム

登録者数12,000人突破!

建築家のアトリエ見学/名作家具プレゼント/限定メールマガジン…すべて無料。

建築家のアトリエ見学に、名作家具プレゼントも。

いますぐ登録!