ニュートンの実験を作品にした杉本博司の新作|鈴木芳雄の「本と展覧会」 | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

ニュートンの実験を作品にした杉本博司の新作|鈴木芳雄の「本と展覧会」

〈京都市京セラ美術館〉のリニューアル展示第一弾のひとつ、『杉本博司 瑠璃の浄土』は開催が延期されていたが、ようやくオープンし、府外からの来館者も受け付けるようになった。京都、瑠璃、浄土をキーワードとして組み立てられた展覧会には、精緻な仕上がりの作品群や選びぬかれた古美術品が並ぶ。その根底には、宗教(ここでは仏教)と科学(ここでは近代物理学の礎を築いたニュートンの仕事)という、時に対極と位置づけられる人類の叡智の双方に対する杉本の深慮が見える。ニュートンの「光学」から触発された杉本の新作「OPTICKS」シリーズを取り上げる。

「OPTICK」シリーズの撮影をする杉本博司。 photo_Yoshio Suzuki
杉本の東京のアトリエ。左側にプリズムが直立している。 photo_Yoshio Suzuki
「冬の冷気を通過してくる光は分光され、薄闇の観測室に導かれ、白漆喰の壁に拡大されて投影される。私はその色の階調の奥深さに圧倒される。光の粒子が見えるような気さえするのだ。そしてその一粒一粒の粒子が微妙に違う色を映している。赤から黄、黄から緑、そして緑から青へと無限の階調を含んで刻々と変化していく。私は色に包まれる。特に色が闇に溶け込む時、その階調は神秘へと溶け込んでいくようだ。」(京都市京セラ美術館開館記念展『杉本博司 瑠璃の浄土』カタログより杉本博司「OPTICKS」 2020年)
京都市京セラ美術館 編『杉本博司 瑠璃の浄土』平凡社 2020年。 photo_Keiko Nakajima
「写真技術の開発に大きく寄与したニュートンの『光学』により、白色だと思われていた太陽光が、プリズムによって赤、橙、黄、緑、青、藍、紫などの屈折率の違う複数の色から構成されていることが発見されたわけだが、杉本はその分光の色そのものを撮るという、これまで誰もやっていなかったことをコンセプチュアルな写真の方法論として提示した。」(京都市京セラ美術館開館記念展「杉本博司 瑠璃の浄土」カタログよりゲストキュレーター三木あき子「『瑠璃の浄土』考——一切法は因縁生なり」 2020年)

杉本は写真史、とりわけ黎明期の写真に興味をもち、それも研究してきた。ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットやルイ・ジャック・マンデ・ダゲールの仕事である。タルボットの紙ネガを入手し、それを杉本が蘇らせ作品化したものもある。そのように写真について研究していくと、ニュートンの光学に行きつくという。

当時、ヨーロッパを襲った伝染病ペストの脅威から逃れるため、ニュートンは故郷のウールスソープに戻っていた。万有引力の発見など、彼の重要な発見や考察はこのときになされたものだが、光学の研究もその一つである。その成果である著書『光学』から引いてみる。

「窓板の孔から部屋にみちびき入れられた太陽光束の中で、孔から数フィートの距離に、その軸が光束に垂直になるような状態にプリズムをおいた。(中略)屈折像の長さは幅の数倍も大きく、また最も大きく屈折された部分は菫で、最も小さく屈折された部分は赤、中間は青、緑、黄の順に見えるのを観測した。」(ニュートン著 島尾永康訳『光学』岩波文庫 1983年)
ニュートン『光学』岩波文庫 1983年。 photo_Keiko Nakajima

これをわかりやすく解説した小学生向けの本があるので見てみよう。「ひかりのぶんさん ニュートンのプリズム」という解説がある。
『玉川こども百科11 ガラスとレンズ』玉川大学出版部 1953年誌面より。 photo_Keiko Nakajima
『玉川こども百科11 ガラスとレンズ』玉川大学出版部 1953年。 photo_Keiko Nakajima
「小さいあなから 太陽のひかりをいれて、それを プリズムのいっぽうのめんにあてると、そのプリズムの中で だいたい 赤、橙、黄、緑、青、藍、菫、の七色のひかりに わかれて、べつのめんから でていきます。そのわかれたひかりを、ついたてか、しろいかべのうえにうつしてみますと、きれいな にじのような 七いろのひかりに わかれてみえます。このように いくつかにわかれたひかりを スペクトルといいます。」(『玉川こども百科11 ガラスとレンズ』玉川大学出版部 1953年)

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