山下めぐみのロンドン通信|建築・デザイン賞で振り返る、イギリスの2018年。 | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

山下めぐみのロンドン通信|建築・デザイン賞で振り返る、イギリスの2018年。

EU離脱問題で激震が続くイギリス。今後の展開はまさしく霧のなかという状況下、建築やデザインでは、今年はどんな進展があるのだろう?

4. ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ・ドーフマン賞
 受賞者:アリレザ・タガボーニ

ドーフマン賞を受賞したイラン人のアリレザ・タガボーニ。
Alireza Taghaboniの作品、イランの住宅、The Guyim Villa(2017)
ドーフマン賞を受賞したイラン人のアリレザ・タガボーニ。
Alireza Taghaboniの作品、イランの住宅、The Guyim Villa(2017)
「ドーフマン賞」は、若手建築家を対象に、欧米に偏らず世界各地から優れた建築家を発掘することを目的に新設。今回、コロンビア、エチオピア、イラン、オランダ、そして日本からは長谷川豪がノミネートされ、それぞれのプレゼンテーションが行われた。受賞したのはイランのアリレザ・タガボーニ。一般的に知られざる国からの洗練された作品に、新鮮な息吹が感じられた。

5. デザインミュージアム・ビーズリー・デザイン大賞
 受賞作:〈フォレンジック・アーキテクチャー〉による展覧会

〈ICA〉で開催された〈フォレンジック・アーキテクチャー〉による展覧会。
各種データ分析し、グラフィックや映像で可視化や再現する〈Forensic Architecture〉の作品。
一番、一般投票が多かったのは、MITの学生が開発したインフレイト式のポータブルボックス〈SurgiBox〉。
プロダクト部門の大賞は、紙と糸でできた手動による遠心力で検査用に血液を分離する簡易装置〈Paperfuge〉。
〈ICA〉で開催された〈フォレンジック・アーキテクチャー〉による展覧会。
各種データ分析し、グラフィックや映像で可視化や再現する〈Forensic Architecture〉の作品。
一番、一般投票が多かったのは、MITの学生が開発したインフレイト式のポータブルボックス〈SurgiBox〉。
プロダクト部門の大賞は、紙と糸でできた手動による遠心力で検査用に血液を分離する簡易装置〈Paperfuge〉。
デザインミュージアムでは、毎年6分野でその年の優秀作をセレクトして展覧会を開催。一般投票も考慮に入れながら、各分野から一作ずつ、全体から大賞が一作決定される。今回、大賞に選ばれたのは「〈フォレンジック・アーキテクチャー〉による展覧会」だ。

〈フォレンジック・アーキテクチャー〉とは、建築家、アーティスト、映像作家、弁護士、科学者、科学者などで構成されるユニットで、いわゆる建築作品はこれまでにない。「建築探偵エージェンシー」とも言われるように、各種データから事件などを分析。法廷や調査機関に提出する証拠にもなる、アニメーションや模型などによる事件や現場の再現が、彼らの仕事だ。

政治や宗教紛争、難民の扱いなど、人権に関わるプロジェクトが主で、世界各地での非人道的な活動の実態を科学的にあぶり出す。今回、受賞したのは〈ICA〉で開催された展覧会になるが、彼らは現代アートの登竜門、ターナー賞にもノミネートされた。いわゆる建築ともアートとも異なる彼らの試みに、新しい可能性が感じられる。

6. ソーン・メダル
 受賞者:デニス・スコット・ブラウン

著書〈ラスベガス〉(1971)で有名になったヴェンチューリだが、スコット・ブラウンとのパートナーシップは生涯続いた。ヴェンチューリが撮ったラスベガスに立つ若きスコット・ブラウン。
ソーン・メダル記念講演を本にまとめたものも配布された。
著書〈ラスベガス〉(1971)で有名になったヴェンチューリだが、スコット・ブラウンとのパートナーシップは生涯続いた。ヴェンチューリが撮ったラスベガスに立つ若きスコット・ブラウン。
ソーン・メダル記念講演を本にまとめたものも配布された。
〈ジョン・ソーン・ミュージアム〉でも知られる18-19世紀の建築家、ジョン・ソーン卿。彼にちなんで2017年に設立された「ソーン・メダル」の第二回目は、女性建築家デニス・スコット・ブラウンに贈られた。

ロバート・ヴェンチュールの公私のパートナーであったスコット・ブラウンだが、1991年にはヴェンチューリのみがプリツカー賞を受賞。彼女と連名で授与すべきだという、ヴェンチューリ自身やザハ・ハディッドらによる嘆願も却下されてきた。今回の授賞はこれを補い、改めて彼女の建築界への貢献を評価するものだ。

奇しくもヴェンチューリは受賞を知ったのちに他界。その1か月後に、映像上映の形でスコット・ブラウンの記念講演が行われた。場所は二人が共同設計したロンドンの〈ナショナル・ギャラリー〉の セインズベリー棟。。大論争の的になってきたいわく付きの建築なのだが、ここでポストモダン建築の騎手であるスコット・ブラウンとヴェンチューリの歩みを振り返るのは、記念すべき出来事。女性建築家への評価を同等とするものとしても、意義深いものとなった。

以上のように、各賞の受賞者から紐解くと、2018年はこれまで正当に評価されなかった人や活動の再評価、人権擁護や社会貢献に結びつくような作品 に光が当てられたことが見えてくる。この傾向が、今年は世界各地にも飛び火するのか、興味深いところだ。

山下めぐみ

やましためぐみ  ロンドンに暮らしてはや25年。イギリスをはじめ、世界各地の建築やデザイン、都市開発の記事を寄稿中。建築を巡るタビを企画提案するArchitabi主宰。マッキントッシュ建築ツアーなど、ご要望受付中。https://www.architabi.com