吉田実香のNY通信|全米最大スケールの個人美術館〈グレンストーン〉がワシントンDC郊外にオープンしました。 | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

吉田実香のNY通信|全米最大スケールの個人美術館〈グレンストーン〉がワシントンDC郊外にオープンしました。

代々木公園の実に2倍近くという広大な敷地に、トーマス・ファイファー設計のパビリオン。1,300点のアートを所有するコレクターが開いた〈グレンストーン〉を訪れました。

ゆったりをアートを味わう空間構成。

驚くのは、そのうち9つの空間が、それぞれ1人の作家のために作られていること。たとえばピピロッティ・リストの映像を流すためだけのギャラリー。サイ・トゥオンブリー、ブライス・マーデン、リジア・パペといったアーティストの作品を深く体験できるように作られたそれぞれの部屋、といった具合に。
ピピロッティ・リスト『Ever Is Over All』(1997)より。
(c) 2018 Pipilotti Rist
リジア・パペ『Livro do Tempo Ⅰ (Book of Time Ⅰ)』(1961)。
(c) 2018 Projeto Lygia Pape
ピピロッティ・リスト『Ever Is Over All』(1997)より。 (c) 2018 Pipilotti Rist
リジア・パペ『Livro do Tempo Ⅰ (Book of Time Ⅰ)』(1961)。 (c) 2018 Projeto Lygia Pape
特に印象深いのが河原温の部屋だ。4年前に他界した氏の代表作である『Today』シリーズのうち、アポロ11号の月面着陸を記念する作品が置かれている。壁や床がコンクリのパビリオンの中で、この部屋だけ漆喰の壁に、ウッドの床。高い吹き抜けの天井を見上げれば、四角い天窓のすりガラス越しに外の光の移ろいがほのかに感じ取れる。

「ご自分のどの作品を、どんな空間でどのように見せたいか。河原氏と生前、徹底的に話し合いました」とレイルズ氏の妻エミリーが語った。
河原温『Moon Landing (detail), 1969, from Today series』(1966-2013)。
(c) One Million Years Foundation
ジャン=ミシェル・バスキアやアンディ・ウォーホル、マーク・ロスコの選りすぐりに圧倒された後は、ライブラリに移動して、巨大なガラス窓ごしに大空や草原を眺めながら思索にふけることもできる。
ライブラリのガラス窓は、幅5.5メートル。
また屋外展示の大型作品はエルズワース・ケリーやフェリックス・ゴンザレス=トレスなど、9体。圧巻はマイケル・ハイザーの『Collapse』だ。スチールのビーム(梁)15本が投げ込まれた、深く巨大な奈落である。スタッフの慎重なガイドのもと、そのすぐそばを来館者が一周するのだが、奈落つまり落とし穴の周囲に安全柵はない。身の危険と背中合わせの鑑賞体験なのである。
マイケル・ハイザー 『Collapse』(1967/2016)
(c) 2018 Michael Heizer
同じアメリカだと、たとえばNY郊外のDIAビーコンも、それぞれ作品に最もふさわしい展示方法を与えたオール・サイトスペシフィックなギャラリーだ。森の中に身を置き、丘を歩かせ、美術鑑賞とあわせて自然との対話を促す美術館と聞いて、マサチューセッツで安藤忠雄が設計したクラーク・インスティテュートを即座に連想する人も多いだろう。またコレクターが私蔵コレクションを無料公開する美術館といえば、LAのザ・ブロードが思い浮かぶかもしれない。

今回の設計にあたっては、金沢21世紀美術館やルイジアナ美術館、メニル・コレクション等にも強く影響を受けたという。新生〈グレンストーン〉は、建物の中や外を歩き、作品を鑑賞すればするほど、建築やコレクションのクオリティが肌で感じられてくる場所だ。だからこそ来館者は1日400名に限定し、完全予約制とする。

近年、マンハッタンでは美術館も混雑して慌ただしく、作品を観に来たのか人を観に来たのかわからなくなる事も珍しくない。「ここ〈グレンストーン〉で提供するのはスローな美術鑑賞です。日常から切り離されたこの場所で、せかされることなく時間をたっぷりかけて体験して頂きたい」とレイルズ夫妻は強調した。

〈Glenstone〉

12100 Glen Rd., Potomac, Maryland TEL 1 301 983 5001。木~日曜10時~17時。月・火・水休。入館無料だが、時間指定チケットをオンラインで事前 予約。12才未満は入館不可、18才未満は大人が常時同伴。現地での支払いは現金不可、カードオンリー。

吉田実香

よしだみか  ライター/翻訳家。ライター/インタビュアーのパートナー、デイヴィッド・G・インバーとのユニットでNYを拠点に取材執筆。『Tokyolife』(Rizzoli)共著、『SUPPOSE DESIGN OFFICE』(FRAME)英文執筆、『たいせつなきみ』(マイラ・カルマン 創元社)翻訳。