山下めぐみのロンドン通信|槇文彦をロンドンで直撃。90歳の巨匠が次世代に伝えたいメッセージとは? | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

山下めぐみのロンドン通信|槇文彦をロンドンで直撃。90歳の巨匠が次世代に伝えたいメッセージとは?

GoogleやFacebookビルの建設も決まっている、ロンドンの大再開発地区キングスクロス。その真ん中にオープンしたのが、アガ・カーンを教主とするイスラム教イスマイリ派の教育文化施設〈アガ・カーン・センター〉だ。この建築を手掛けた槇文彦とプロジェクトを担当した亀本ゲイリーに、現地にて話を聞く機会を得た。

「壁で囲みながら、中には生命を宿すオアシスとなる中庭などがある、というのはイスラム建築の原型です。カナダの物件も同様、イスラム性はモチーフなどより、空間構成で表現しています」と亀本は説明する。 館内には〈アガ・カーン財団〉、〈アガ・カーン大学〉、〈イスマイリ研究所〉の3つの組織が入居する。

部外者には、やや謎めいて映るイスラム教の一派だが、人種・宗教・政治信条などの平和的共存を容認する多元主義がその特徴の一つ。だからこそ他文化との交流の拠点になるよう、ロンドンの真ん中の商業施設に隣接した場所が選ばれたようだ。テロの標的にもなりうるなか、建築面でも「できる限りオープンであることを目指した」という。

その一環で、館内には大小6つのイスラム式ガーデンが散りばめられている。それは瞑想の場であり、交流の場。都会の真ん中の静寂なオアシスだ。一般の人も 、館内ツアーに参加すれば、見て回ることができる。案内を務めるのは学生や教授陣で、まさに建築を通しての文化交流になる。建物の向かいには、一般に解放されるガーデンも来年完成になる。
天井にイスラム装飾が施され、中央に小さな噴水がある「ガーデン・オブ・トランクイリティ」。
スペインのアンダルシアのイスラム式ガーデンにインスパイアされた「ガーデン・オブ・ライト」。
ロンドンのスカイラインを望む、長いバルコニー「テラス・オブ・ディスカバリー」。
屋上にあるムガール帝国をイメージした「ガーデン・オブ・ライフ」。フルーツの木などが植えられ、食べてもOK。
天井にイスラム装飾が施され、中央に小さな噴水がある「ガーデン・オブ・トランクイリティ」。
スペインのアンダルシアのイスラム式ガーデンにインスパイアされた「ガーデン・オブ・ライト」。
ロンドンのスカイラインを望む、長いバルコニー「テラス・オブ・ディスカバリー」。
屋上にあるムガール帝国をイメージした「ガーデン・オブ・ライフ」。フルーツの木などが植えられ、食べてもOK。
これまでも「建物より広場が大切である」と発言してきた槇。彼の代表作で1969年から30年間掛けて段階的に作られてきたある代官山のヒルサイドテラス、近作の東京電機大学千住キャンパスなど、人が集まる「ヒューマンな環境を作ってあげたい」という思い。それが今回、モダニズムとイスラムの融合、という形で表現されている 。

この日はオープンハウスということで、館内にはたくさんの見学者であふれていた。「素晴らしい建物をありがとう」「一緒に写真を撮っていいいいですか?」など、槇の存在に気づいた人たちから、次々声が掛かったことも印象的。実はロンドンでは、これが初めての日本人建築家による恒久的な建物になる。

今回、槇の訪英の目的の一つは〈ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ〉での講演会。この翌日に行われた講演会にも、メタボリズムの提唱者の一人で、伝説の建築家と言える槇の肉声を聞きたい、と多くの建築関係者が集まった。これまでの代表作などを振り返った後、槇が講演の最後に語り掛けたのは、「無償の愛」についてだった。

「マドリッドのオペラハウスの前の広場で、中で上演されているドミンゴが歌う様子をたくさんの人がスクリーンで観ていました。タダでドミンゴが聴けるってすごいなと。そこから、文化とは無償の愛なのでは、という思いが浮かんだのです」。

高級マンションからの眺めは素晴らしいが有償。それに対して、誰しもが自由に利用できる広場は無償ということだが、いずれも「愛」があるから、愛されるものができるということか。

モダニズムを継承しながら、建築、都市計画の両面から建築界を長らく先導、日米で教鞭も取ってきた槇。イスラム教からユダヤ教まで、まさに多元主義的に各タイプの建築も手がけてきた。

「私たちは無償の愛を元に、行動を考えていくべきではないでしょうか」。

深い人生経験から発せられるその言葉に、会場は感動に包まれた。
〈ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ〉での講演会で、Unconditional Love = 無償の愛について語る槇文彦。
ル・コルビュジエの影響、丹下健三やメタボリズムについても語られた。
若かりし頃、ワシントン大学とハーバード大学でも教鞭を取った。講演は英語で行われた。
〈ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ〉での講演会で、Unconditional Love = 無償の愛について語る槇文彦。
ル・コルビュジエの影響、丹下健三やメタボリズムについても語られた。
若かりし頃、ワシントン大学とハーバード大学でも教鞭を取った。講演は英語で行われた。

槇 文彦

1928年東京生まれ。東大工学部建築学科を卒業後、クランブルック美術学院、ハーバード大学大学院を終了。65年 槇総合計画事務所を設立。プリツカー賞(1993年)高松宮殿下記念世界文化賞(1999) 、AIAゴールドメダル(2011)など受賞多数。

〈Aga Khan Centre〉

10 Handyside Street, London N1C 4DN。1階のギャラリーでは1イスラム庭園に関する展覧会を開催中。10時〜17時(土日休)入場無料。館内ツアーは月曜と木曜の3時より。要オンライン予約。

山下めぐみ

やましためぐみ  ロンドンに暮らしてはや25年。イギリスをはじめ、世界各地の建築やデザイン、都市開発の記事を寄稿中。建築を巡るタビを企画提案するArchitabi主宰。マッキントッシュ建築ツアーなど、ご要望受付中。https://www.architabi.com