【大阪・なんば】国の有形文化財に泊まる。|甲斐みのりの建築半日散歩 | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

【大阪・なんば】国の有形文化財に泊まる。|甲斐みのりの建築半日散歩

文筆家・甲斐みのりが名建築を訪ねて半日散歩するシリーズ。第一回目に訪れたのは、大阪・難波。国の有形文化財に指定された〈高島屋東別館〉内に開業したホテルにチェックインしたあとは、かつて「道頓堀五座」と呼ばれる芝居小屋が櫓を構え、今も多くの老舗が残る難波界隈を歩きます。現在は外出しにくい日々が続いていますが、今後のお出かけのリストに加えてみてください。

●建築の聖地と謳われる名喫茶へ。

〈純喫茶 アメリカン〉で「プリンサンデー」(840円)と、ドイツ製プロバットで自家焙煎し、砂糖とミルクを入れるとちょうどいいように濃く淹れた「コーヒー」(570円)を注文。コーヒーは7種類の豆をブレンド。深いコクと香りがある。
店を構えるのは、千日前商店街・アーケードの中。設計を手がけたのは富士工務店。創業時の店名は〈花月〉。最初はその日入った素材で団子やまんじゅうを作る、なんでも屋のような営業形態だった。2度の火事を乗り越え、昭和38年に6階建のビルに建て替えた。奥に広く2階席もある。
14時からのチェックインに合わせてホテルに荷物を置いたあと、歩いて10分弱の千日前商店街〈純喫茶アメリカン〉へ。1946年(昭和21)から74年続く老舗は、喫茶店愛好家とともに、建築ファンの聖地としても名高い。

創業時は木造だった店を少しずつ広げて、1963年(昭和38)に鉄筋コンクリート造りのビルに建て替えた。現在店を切り盛りする3代目姉妹の祖父と父は、普段は質素に暮らしつつ、儲け全てを店の改装につぎ込んだそう。
2階の窓際の席から眺める店内。曲線を描く大理石の階段は、二度も職人に断られながら完成させた。村上泰造氏によるグラスファイバーの彫刻が輝きを放つ。
1階の照明は光の露をまとった花のよう。店内各所で贅沢に照明を使っているため、建物の中に電球だけの部屋があるほど。
イタリア産の赤い大理石の壁。天井から下がる照明は、眼のようにも見えるけれど、プロペラがモチーフ。
お客様の目を楽しませるため、ショーウィンドウの下をはじめ、店内各所に生花が飾られている。
赤い大理石はイタリア産。パーテーションには白蝶貝を使い、緩やかに凹凸を描く木の壁には家一軒建つほどの費用をかけた。男女を表したモニュメントは、当時は革新的な素材だったグラスファイバー。階段を飾るシャンデリアは実は2基あり、一年ごと掛け替えて埃を払う。当然、維持に苦労するが、祖父と父が築いた誇りの形を愛して通う人がいる限り、煌びやかな光は絶えず守られる。
1階左手の木の壁。1センチ弱幅の、様々な種類の木の板を640枚貼り合わせ、滑らかな凹凸がつくように削り出して、ところどころにステンドグラスを埋め込んだ。昭和50年当時の価値で家一軒分の費用がかかったそう。
1階右手の壁を飾る3枚の絵画は、左から、丘、川、港が描かれる。もともとあった港の絵に、水の流れを表すストーリーをつけて、店のために描き下ろしてもらった連作。
2階右手の壁一面には、川島織物による手織りの絨毯・緞通が。
ぴかいちなのは建築のみならず、白玉もあんこもホットケーキの粉も、できるだけ自家製を貫くメニューも同様で、大阪風の濃いコーヒーも自家焙煎。昔からこのあたりは芝居のまち。いつもは幕内弁当のところ、たまにはサンドイッチも食べたいというお客様の要望や楽屋からの注文で持ち帰りも始めた。

一にも二にも、お客様のために。店に身を置く間じゅう、ふわっと温かい何かに守られているようで心地いいのは、3代続くおもてなしの心を全身で感じているからだ。
星柄の包装紙で包み、水色のリボンをかけた、持ち帰り用の「ホットケーキ」570円。背景に写るパーテーションには、白蝶貝が敷き詰められている。
秀逸なレタリングが施された、持ち帰り用ホットケーキの箱。
2枚重ねのホットケーキは、食べやすいようあらかじめカットされている。

〈純喫茶アメリカン〉

大阪府大阪市中央区道頓堀1-7-4 TEL 06-6211-2100。9時〜22時45分LO(火曜〜22時15分LO)。月3回木曜不定休。オーダーしたものを除き、店内の撮影は禁止。

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