トーマス・マイヤーは日本で何を感じたか?

建築にも深い愛情と知識を持つボッテガ・ヴェネタの クリエイティブ・ディレクター、トーマス・マイヤー。 東京と香川、モダニズム建築の旅に出た彼が出会ったものは?

有機的な形態が特徴的な〈日生劇場〉ホール内部。金とコバルトのガラスモザイクを使用した壁面は、照明が当たるとキラリと光を放つ。トーマスも、壁面に触れてディテールをじっくりと見つめる。

DAY 1

5:00pm 日生劇場

1963年竣工。設計:村野藤吾。日本生命日比谷ビルに併設された日生劇場。いかめしさも感じさせる外観と、有機的な形態と豊かな色合いのインテリアが対照的な建物だ。ホールのうねるような壁や天井は音響効果のため。ホール天井の海を思わせる色彩は、あじさいの花をイメージしたと村野は言う。開館時から小学生の無料招待プログラムを実施するなど、広く芸術の普及に努めてきた(現在は劇団四季に引き継がれている)。ファサードは隣接していた旧帝国ホテルの黒っぽい外壁に対して白っぽい色を使い、帝国ホテルを見るための窓まであった。

“50年前のディテールが完璧に残っているとは素晴らしい!”

10月上旬、成田空港に降り立ったトーマス・マイヤー。滞在先の〈ホテルオークラ東京〉にチェックインした彼は、すぐにまた車に乗り込む。向かった先は、日比谷の〈日生劇場〉。そう、トーマスの今回の来日の目的は、日本のモダニズム建築の現状を見ることなのだ。〈日生劇場〉は村野藤吾の設計で 1963年に開館した劇場。初めて訪れたトーマスは、まずロビーに立って大理石の床を歩いてみる。「あちらは床の材料が違うみたいだけれど?」とトーマス。〈日生劇場〉ではオフィスと劇場とでエントランスの床の仕上げを変えていて、オフィスには床にモザイク画が描かれている。幾何学模様が施されたロビー天井の照明、ゆるやかにうねる階段や手すりなどはすべて当時のまま。優美な曲線にトーマスはすっかり見入っている。 ホール内に入ると洞窟のような空間が広がる。天井に散らばる星のような白い丸はアコヤ貝だ。トーマスは「素晴らしい」とため息をつき、客席に座ったり、壁に触ったりして空間を体感する。 この劇場は当時の日本生命社長、弘世現(ひろせげん)の発案によるもの。当時最高のものを目指した劇場はときに誤解を招くこともあり、弘世が国会で劇場について問われたこともあった。が、彼は「良い器をつくれば、良いものが入ってくる。良いものを見たときの感激はその人の一生を支配する」との信念のもと、一歩も譲らなかったという。その理念通り、今も都心で一流の演劇やオペラに親しめる場所になっている。