CULTURE
フリッパーズ・ギターが、あの小説の中で、蘇る!
December 15, 2015 | Culture | a wall newspaper | photo_Keiko Nakajima text_Toshiya Muraoka
多様な引用を駆使してあの時代を呼び起こす、タイムスリップ小説『ドルフィン・ソングを救え!』の魂胆とは。
「俺たちは偉大なる先人をリスペクトしているからね。右から左に移すのは盗作。愛があればオマージュ。なければただのパクリ」
作品中の登場人物が口にするこのセリフは、そのまま作者である樋口毅宏の思いではないか。作中にちりばめられた歌詞や設定。あるいはストーリー展開さえも巧みに拝借してくる。その引用センスに洒脱さを感じるからこそ、読者はのめり込んでしまう。今作品の大きなモチーフは、1980年代末〜90年代を象徴する二人組。フリッパーズ・ギターだった。
「初めに『ブルータス』で連載をと、面識もないところから声をかけていただいて、そうか、細かいコラムのページだなと思ってプレゼンしたんですよ。“90年代の下北インディーロック”とか“誰も語らない忘れられた映画”とかどうですかって。そうしたら、小説の連載だと(笑)。せっかくマガジンハウスさんに声をかけていただいたからには、と考えたのがタイムスリップもの。かつてオリーブ少女が大好きだったフリッパーズ・ギターをモチーフに何か書けないかなと思ったんです」
担当の編集者に過去の作品についての好みを尋ね、挙げられたのが『さらば雑司ヶ谷』だった。ならばと同じような「ジェットコースター的な緩急をつけた作品」を提案する。その結果、書き上げた枚数はなんと、『さらば雑司ヶ谷』とまったく同じだったという。その戦略的な仕事こそ、樋口の真骨頂。表紙に岡崎京子のイラストを用いたのにも、計算ずくの深い意味があったのか。
「僕自身は考えもしなかったんですが、編集者からどうですかと提案していただいて。フリッパーズ・ギターという名前を表紙にどーんと書くよりも、物語をある意味で抽象化したのかもしれませんね。ただ、世田谷文学館での岡崎京子展の最終日(2015年3月31日)に、オザケンのシークレットライブがあったんです。僕は一番前のど真ん中で小沢健二のライブを観ました。この小説の連載中でしたけど、まさかそのころは、岡崎さんの絵を使わせてもらえるなんてこれっぽっちも思ってなかったですから」
意外なことに、本質的な部分では“計算”よりも、むしろ運命的に、小説は形になっていった。今までに体に蓄積したものを、引用とコラージュという形式を使って、導かれるように表現していく。その根は、とても深いことがこんなエピソードからもわかる。
「本当に僕はサブカルクソ野郎ですから(笑)。デビュー原稿、実は『ロッキング・オン・ジャパン』なんですよ。学生のときに投稿ページに載ったんです。3回載ったことがあるのかな? 400字4000円の原稿料、ありがたかったなあ。その初めての原稿で扱ったのがオザケンでした。アルバム『LIFE』を出したとき、94年ですね。人生に予告編ありですね。あのときに決まっていたんですね」
いわく「愛を泥のように投げつける男」による、自身の人生を変えられたミュージシャンに捧げる小説。物語の構造にはスティーヴン・キングを用い、主人公トリコの名前にはスチャダラパーや電気グルーヴが引用した根本敬をかぶせてくる。その“仕掛け”を読み解く楽しさも大きなものだが、冒頭の引用のように、“愛”こそがすべて。フリッパーズ・ギターが活動した3年の記憶と感情が、フラッシュバックするはずだ。
作品中の登場人物が口にするこのセリフは、そのまま作者である樋口毅宏の思いではないか。作中にちりばめられた歌詞や設定。あるいはストーリー展開さえも巧みに拝借してくる。その引用センスに洒脱さを感じるからこそ、読者はのめり込んでしまう。今作品の大きなモチーフは、1980年代末〜90年代を象徴する二人組。フリッパーズ・ギターだった。
「初めに『ブルータス』で連載をと、面識もないところから声をかけていただいて、そうか、細かいコラムのページだなと思ってプレゼンしたんですよ。“90年代の下北インディーロック”とか“誰も語らない忘れられた映画”とかどうですかって。そうしたら、小説の連載だと(笑)。せっかくマガジンハウスさんに声をかけていただいたからには、と考えたのがタイムスリップもの。かつてオリーブ少女が大好きだったフリッパーズ・ギターをモチーフに何か書けないかなと思ったんです」
担当の編集者に過去の作品についての好みを尋ね、挙げられたのが『さらば雑司ヶ谷』だった。ならばと同じような「ジェットコースター的な緩急をつけた作品」を提案する。その結果、書き上げた枚数はなんと、『さらば雑司ヶ谷』とまったく同じだったという。その戦略的な仕事こそ、樋口の真骨頂。表紙に岡崎京子のイラストを用いたのにも、計算ずくの深い意味があったのか。
「僕自身は考えもしなかったんですが、編集者からどうですかと提案していただいて。フリッパーズ・ギターという名前を表紙にどーんと書くよりも、物語をある意味で抽象化したのかもしれませんね。ただ、世田谷文学館での岡崎京子展の最終日(2015年3月31日)に、オザケンのシークレットライブがあったんです。僕は一番前のど真ん中で小沢健二のライブを観ました。この小説の連載中でしたけど、まさかそのころは、岡崎さんの絵を使わせてもらえるなんてこれっぽっちも思ってなかったですから」
意外なことに、本質的な部分では“計算”よりも、むしろ運命的に、小説は形になっていった。今までに体に蓄積したものを、引用とコラージュという形式を使って、導かれるように表現していく。その根は、とても深いことがこんなエピソードからもわかる。
「本当に僕はサブカルクソ野郎ですから(笑)。デビュー原稿、実は『ロッキング・オン・ジャパン』なんですよ。学生のときに投稿ページに載ったんです。3回載ったことがあるのかな? 400字4000円の原稿料、ありがたかったなあ。その初めての原稿で扱ったのがオザケンでした。アルバム『LIFE』を出したとき、94年ですね。人生に予告編ありですね。あのときに決まっていたんですね」
いわく「愛を泥のように投げつける男」による、自身の人生を変えられたミュージシャンに捧げる小説。物語の構造にはスティーヴン・キングを用い、主人公トリコの名前にはスチャダラパーや電気グルーヴが引用した根本敬をかぶせてくる。その“仕掛け”を読み解く楽しさも大きなものだが、冒頭の引用のように、“愛”こそがすべて。フリッパーズ・ギターが活動した3年の記憶と感情が、フラッシュバックするはずだ。
樋口毅宏
ひぐちたけひろ 1971年豊島区雑司ヶ谷生まれ。出版社勤務ののち『さらば雑司ヶ谷』でデビュー。『民宿雪国』で山本周五郎賞の候補に。『タモリ論』で話題となるほか『日本のセックス』など著書多数。
『ドルフィン・ソングを救え!』
2019年から1989年へとタイムスリップした主人公が、青春時代に好きだったバンドを救うべく奔走。タイトルはフリッパーズ・ギターの曲名から。1,300円(小社刊)。