青野尚子の「今週末見るべきアート」| 無限の物語が潜むシンプルな形態。

森美術館で開催中の「シンプルなかたち」展はフランスのポンピドゥー・センター・メスとエルメス財団が共同で企画、ジャン・ド・ロワジーがキュレーションした展示に、日本独自の展示物をプラスしたもの。古今東西の“シンプル”なものが並ぶ。

展覧会は「形而上学的風景」「孤高の庵」など、9つのセクションに分かれている。「宇宙と月」と題されたセクションに展示されているのはヴォルフガング・ティルマンスの写真作品。煙のように見えるが、実は暗室の中で光を操作したもの。作家の手を介さず、偶然できた形だ。タイトルの「フライシュヴィマー」は「自由に泳ぐ人」の意味。そう聞いた途端にもやもやしたパターンが水に見えてくるから不思議だ。

ヴォルフガング・ティルマンス《フライシュヴィマー(自由な泳ぎ手)》2012年 インクジェット・プリント 306x256cm

その隣には李朝の白い壺がある。李朝白磁は20世紀初頭、柳宗悦や小林秀雄らが蒐集したことで知られるようになった。李朝では富や権力におもねらず高潔さを保つ人を「ソンビ」と呼んで讃えた。汚れのない白はそのソンビ精神も思わせる。