巨匠の写真を人々の手に戻せ! シュタイデルが考える、ロバート・フランク展。

巨匠ロバート・フランクの写真を新聞用紙に印刷し、展示が終われば破り捨てる! そんなコンセプチュアルな写真展が、東京藝術大学大学美術館でスタート。高額取引されるプリント作品へのアンチテーゼともいえる試みだ。フランクと共に展示を企画した、ドイツの出版社〈Steidl〉のゲルハルト・シュタイデルを直撃!

新聞紙に印刷された「The Americans」の前に立つ、ゲルハルト・シュタイデル。

写真集『The Americans』の表紙となった写真は、一枚663,750ドルの値が付いた。日本円にしておよそ7,000万円……! 写真界の巨匠、ロバート・フランクのプリント作品は高額になりすぎたため、美術館やコレクターからの貸し出しに巨額な保険金がかけられ、展覧会の開催も困難を極めている。しかし、フランクの希望は若者に自分の写真をもっと見てもらうこと。その願いをドイツの出版社〈Steidl〉のゲルハルト・シュタイデルが叶えた!

印刷されなかった新聞のあまり紙にフランクの写真をプリントし、それを世界中の教育機関やノンコマーシャル・ギャラリーで展示する試みだ。世界50か所を巡回中で、東京は11か所目。来日したゲルハルト・シュタイデルに展覧会の見どころを聞いた。

初版は1958年。世の中でもっとも成功した写真集と言われる『The Americans』。展示されているのは2008年に〈Steidl〉社から再出版されたもの。

Q ロバート・フランクは写真界で大変評価が高い巨匠ですが、実際はどんな方なのでしょうか?

1924年にスイスで生まれ、アメリカに渡って活躍した写真家だよ。彼はスイスという小さな国から大きくて、オープンで自由な国アメリカを目指した。1947年にそれまでに撮った写真のポートフォリオを抱えて、移住したんだ。はじめはフリーランスで雑誌の『ハーパーズ バザー』のために靴や食器の撮影をしていたけれども、自分の作品も並行して撮り続け、1958年にアメリカの風景を撮った『The Americans』を発表した。これは世界で最も素晴らしい写真集と言われている。モダンの先駆けだね。先日(11月9日)、92歳の誕生日を迎えたけれど、写真集作りをもっとやりたいと今でも精力的だよ。

Q 写真集が出た時、アメリカでの評判は良くなかったと聞いたことがあります

当時、一般の人には理解されなかったと思う。それまで写真は挿絵的に使われていたから。それにロバートの写真は社会の影の部分を捉えているでしょ。例えば、バスの中で白人と黒人が分かれて座っている場面とか。どちらかというと批判的な視点だよね。アメリカの人々が直視したくない現実。だからアメリカへの非難と思われたんだ。

50年代といえば、アメリカの黄金時代のイメージがあるが、ロバート・フランクは、あえて影の部分を撮影した。

Q どうして後に評価が高まったのでしょうか?

ローリング・ストーンズのライブツアーを追いかける仕事をしたり、自身の作品の展示をし続けて伝説になったよ。彼は虚栄心ではなく、真摯に自分の作品を次々と発表してきた。自分の作品写真を広告などに使うこともなかった。そういう売り方はしなかったんだ。昔はヴィンテージ・プリントという考えは存在しなかったから、ほとんどの写真は安く売られていたよ。当時1,000ドルで売った写真は今100,000ドルくらいに高騰しているけれど、儲かったのはディーラーたちでロバートじゃない。