ART
アンディ・ウォーホルが仕掛けた、凶悪指名手配犯と息子の50年後の再会。
August 31, 2014 | Art | casabrutus.com | photo: Naho Kubota text: Mika Yoshida & David G. Imber
今からちょうど50年前、アンディ・ウォーホルの作品が騒動を巻き起こしたのをご存じだろうか? 舞台となったのはNYクイーンズ地区で催された、アメリカ史上最大の万国博覧会。NY州パビリオンの外壁に、犯罪者の顔写真を引き延ばしたポートレートが掲げられた。タイトルは《13人の凶悪指名手配犯》。繁栄と未来の象徴、万博を飾るに当たってこれほどふさわしくないテーマもない。それ以外にもさまざまなタブーを含んでいたため、設営のわずか数日後、無残にも塗りつぶされてしまう。
パビリオンの設計を手がけたのは、建築家フィリップ・ジョンソン。エルズワース・ケリーやロバート・ラウシェンバーグほか10のアーティストが、彼から作品制作の依頼を受けた中、ウォーホル作品だけが陽の目を見ることなく葬り去られてしまったのである。
パビリオンの設計を手がけたのは、建築家フィリップ・ジョンソン。エルズワース・ケリーやロバート・ラウシェンバーグほか10のアーティストが、彼から作品制作の依頼を受けた中、ウォーホル作品だけが陽の目を見ることなく葬り去られてしまったのである。
一体このポートレートのどこが、お上の逆鱗に触れたのだろう?
元となった写真はその2年前にNY市警察が発行した冊子から取ったもの。いまだ実在する犯罪者の素顔をデカデカと公開するというのは、1964年当時の人々にはショックが強すぎた。しかも13人の大半がイタリア系とアイルランド系。ちょうどその時期、大統領選に立候補していたNY州知事にすれば、彼らから猛反発を受けて票田をごっそり失うのは何としても避けたいところ。顔写真の中には、拘留中に受けた暴力の跡が生々しいものもある。そもそも、万博の狙いはNYのイメージアップだ。犯罪都市の汚名を返上し、観光収入を増やすための官民挙げての歴史的イベントに、ウォーホルは真っ向から挑戦したのである。
さらには何といっても、タイトルが挑発的だ。原題《13 Most Wanted Men》とは「警察に最も追われている13人の指名手配犯」と同時に、「最も食指を動かされる13人のいい男」というダブルミーニングなのである。万博の開幕時には、アルミニウムの塗料で全面塗りつぶされていた《13人の凶悪指名手配犯》。同年の夏、ウォーホルは同じシルクスクリーンの原版から9枚のポートレートを展覧会用に制作する。
元となった写真はその2年前にNY市警察が発行した冊子から取ったもの。いまだ実在する犯罪者の素顔をデカデカと公開するというのは、1964年当時の人々にはショックが強すぎた。しかも13人の大半がイタリア系とアイルランド系。ちょうどその時期、大統領選に立候補していたNY州知事にすれば、彼らから猛反発を受けて票田をごっそり失うのは何としても避けたいところ。顔写真の中には、拘留中に受けた暴力の跡が生々しいものもある。そもそも、万博の狙いはNYのイメージアップだ。犯罪都市の汚名を返上し、観光収入を増やすための官民挙げての歴史的イベントに、ウォーホルは真っ向から挑戦したのである。
さらには何といっても、タイトルが挑発的だ。原題《13 Most Wanted Men》とは「警察に最も追われている13人の指名手配犯」と同時に、「最も食指を動かされる13人のいい男」というダブルミーニングなのである。万博の開幕時には、アルミニウムの塗料で全面塗りつぶされていた《13人の凶悪指名手配犯》。同年の夏、ウォーホルは同じシルクスクリーンの原版から9枚のポートレートを展覧会用に制作する。
それから50年後の2014年現在、この9点のシルクスクリーンが『13人の凶悪指名手配犯』展として公開中だ。場所は万博会場跡地の敷地内に建つクイーンズ美術館。マンハッタンから必ずしも近いとはいえないこの美術館へ連日、内外から老若男女がやってくる。ウォーホルのポートレートの前では、親の説明に幼児や小学生が耳を傾けていたり、カップルがデートコースにしていたり。
そんな中、なんと「私はこの手配犯の息子です」と名乗る人物が現れたとNYタイムズが報じて話題となった。新聞で同展の紹介記事を読んでいたその男性、添えられた写真を見て全身に衝撃が走ったという。「生き別れの父親だ!」。2才で教会に捨てられた彼は、父親が銀行強盗犯だった事は養父母から聞かされていた。が、「まさかアンディ・ウォーホルの作品になっていたなんて」と。このシリーズには、実名も添えてあるので間違いない。母親と共に逃亡したまま消息不明の父と、こんな形で巡り会うとは。コネチカット在住のその男性はつい先ごろ展示を訪れ、父親のポートレートとの対面を果たしたそうである。
この世を去って27年が経った今も、こんな「仕掛け」を見せてくれるとは。やはりウォーホルは永遠不滅のトリックスターなのである。
そんな中、なんと「私はこの手配犯の息子です」と名乗る人物が現れたとNYタイムズが報じて話題となった。新聞で同展の紹介記事を読んでいたその男性、添えられた写真を見て全身に衝撃が走ったという。「生き別れの父親だ!」。2才で教会に捨てられた彼は、父親が銀行強盗犯だった事は養父母から聞かされていた。が、「まさかアンディ・ウォーホルの作品になっていたなんて」と。このシリーズには、実名も添えてあるので間違いない。母親と共に逃亡したまま消息不明の父と、こんな形で巡り会うとは。コネチカット在住のその男性はつい先ごろ展示を訪れ、父親のポートレートとの対面を果たしたそうである。
この世を去って27年が経った今も、こんな「仕掛け」を見せてくれるとは。やはりウォーホルは永遠不滅のトリックスターなのである。
INFORMATION
●クイーンズ美術館〈The Queens Museum〉
New York City Building Flushing Meadows Corona Park, Queens, NY TEL +1 718 592 9700。~9月7日。12時~18時。月曜・火曜休。8ドル。http://www.queensmuseum.org